ゴリラ豪雨

IT会社勤務のゴリラです

ヤベー奴の話

 

1年ほど前から、私は常駐先でリーダーになった。

 

常駐先にやってくる弊社社員やBP(弊社経由で入ってくる別会社の人)の1番上の立場であり、勤怠やスケジュールをまとめマネジメントしたり、とにかく常駐先における弊社の最高権力者だ。

まあ実際は客先の犬代表って感じです。ばくゎら

 

それと同時にプログラマからシステムエンジニアに格上げされ、意味わからんくらい忙しい日々を送っている。

 

今までは言われた通りにプログラミングをして、わからなければ上司に聞いて、それで済んでいた。

私がたとえ失敗したとしても、責任は上司がとる。

ただ最高だった。

月3日とか休んでも余裕で仕事が出来ていた。

 

なのに今では、下にいる人達の質問やらスケジュール管理やら打ち合わせやら会議やら検証やら、急にやることが増えてクマがやばい。

寝てないとかでなく普通にクマがやばい。

よくわからんけどほっぺにニキビ出来がち。しかも何回もなる。

膝も痛い。

なんなんや。

 

それでもなんとか、後輩のひとりであるJくんが手のかからない良い子のため、心の平穏は保てていた。

しかし、ある日爆弾がやってきた。

 

27歳の男性だった。

 

初めて会ったのは、会議のため本社に帰社した日だった。

見慣れないやつがいた。

意味わからんTシャツを着ていて、猫背で、坊主をほっといたみたいな髪型で、人を100人くらい惨殺したんか?という目つきの人だった。

私は咄嗟に(殺られる!)と思った。

社長が私の目線に気づいて、「そいつ、来月からお前んとこいれるねん!」といった。

えっ……と思ったし言ったし顔に出した。

嫌だった。

普通に生理的に無理だった。

 

人って、会った瞬間に無理だって思う人が絶対にいると思う。

私にとっては目の前にいるこの人がそうだった。

 

絶望。

 

その2文字が頭に浮かんだ。

 

「よろしくお願いします」

声を絞り出した。

本当はよろしくなどしたくない。

すると目の前の殺人鬼は、「いやっまさかこんなっ綺麗な人がwフシュッ、聞いてなかったからw嬉しいですねwよっよろっ、よろしくお願いいたしまフシュッ」と言った。

 

マスクをしていてよかった。

私の顔は今ひどいことになっている。

たぶんだけど昼ごはんを食べてからここに来ていたら、ショックで全部吐いていた。

 

なんで喋ってる途中に空気吐き出すんだよ。

よろしくお願いいたしまフシュッってなんだよ。

 

その日のお昼は、会社でドミノピザをとり、全員で食べた。

空になったピザの箱には、誰かのピザから落ちたトマトがぽつんと残されていた。

殺人鬼は、きょろりと辺りを見回すと、それをつまみ、口に運んだ。

 

私は、ひえーーーーーっ!と思った。

食べたピザを吐き出してしまいそうになったけれど、この分だと私の吐いたピザも食べられかねないと思って耐えた。

 

その後、二度と会いたくないと思っていたが、当然私と同じプロジェクトに配属のため、会わない訳にはいかない。

 

顔合わせをかねて、配属日の1週間ほど前に、ランチ会をすることになった。

私と、Jくんと、社長と、殺人鬼の4人だ。

私は好き嫌いが多いため、あまり会社の人と食事をしたくないし、その頃は昼ごはんを食べないことにしていた(午後に謎の胃痛に見舞われる)ため、地獄か?と思った。

 

全員で夢庵に行き、日替わり定食を頼んだ。

殺人鬼だけはアプリから割り引かれるなにかしらの定食を頼んでいた。

 

日替わり定食は、たしか唐揚げだったかな。

 

みそしる、つけもの、キャベツにからあげ、ごはん。

一般的な定食で、千切りキャベツには既にドレッシングがかかっていて、3口食べてから、「このドレッシング苦手だな……?」となり、食べるのを辞めた。

 

お金を出してくれる社長には申し訳ないが、社長とは何度も食事に行っており、私が生野菜を食べられないことを知っているため、社長には前々から「嫌いなものは無理して食べんでええねん」と言われていたので、箸を置いた。

 

全員が食べ終わり、さあ出るか、と社長が席を立った時、殺人鬼は、こちらを見た。

殺られる! と思った。

 

なに?!と思っていたら、なんと殺人鬼は「それ、食べていいですか」と言いながら、私のお皿をとり、千切りキャベツをモシャモシャと食べ始めたのだ。

 

え〜?!?!?!??!?!???!?!?!??!!

 

私はびっくりしすぎて目を見開くことしかできなかった。

普通ほぼ初対面の異性が口をつけた千切りキャベツ食べる〜?!?!?!!!?!?!?!?!?!!?!

しかも良いって言ってないけど〜!!!?!?!?!?!??!?!?!

 

 

この先絶対にやっていけないと思った。

私は社長の後を追い、これからのことをぼんやり考えていた。

 

ちなみにJくんは優しいので殺人鬼が私のキャベツを食べ終わるのを待ってあげていたのが、そのときに殺人鬼が「残すなら頼むなよ……」と言っていたとあとから教えてくれた。

 

は?頼んでないのだが?

千切りキャベツ、ください。

言ってないのだが?言ったか?聞いたのか?

私が頼んだのは唐揚げ定食であり、千切りキャベツ定食ではないのだが?

あくまで付け合わせとしてついてきたのであり、千切りキャベツを食べるために唐揚げ定食を頼んだわけではないのだが?

頭おかしいんかお前は?

 

残すなら頼むなよ……じゃねーんだわ。

許可してないのに人のを食べるなよ……なんだわ。

 

とにかくこいつはヤベー奴で、私はこいつとは上手くやっていけない。

配属される日が怖くて怖くて仕方なくなった。

 

書ききれないほどのキモエピソードがこいつにはあるが、とりあえず、最終的にあまりのやばさに「もう無理です……」と私が社長に泣きついたことで、殺人鬼は別の場所へ異動となり、私は再び平穏な日々を手に入れたのであった。

 

本当に、めでたし。